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35歳の男性。「戸締りを確認していて毎日のように遅刻してしまう」という主訴で来院した。一人暮らしだが、約3か月前に近所で空き巣があったというニュースを聞いてから、自分では過剰だと思いながらも戸締りの確認がやめられずに悩んでいる。仕事でも書類の紛失を心配して確認することが目立つようになった。集中力や意欲に問題はない。
考えられるのはどれか。

a 適応障害
b 解離性障害
c 強迫性障害
d 身体化障害
e 社交<社会>不安障害

 

「戸締りの確認をやめられない」から強迫性障害OCDを第一に考えます。仕事でも確認強迫が出現しておりOCDの可能性は高そうです。自分でも過剰だと感じているなど、不合理性の認識がみられるのもやはりOCDの特徴です。

a 適応障害は特定の環境に適応できず抑うつなどの症状を呈するもので、要因を取り除くことで改善します(ICD-10では、通常6ヶ月以上は持続しないとされる)。×

b 解離性障害は、ストレスに対する防御反応として解離という状態を生じるもので、人格や意識、記憶などが不連続になります。人格が不連続になるのは解離性同一性障害(いわゆる多重人格のようなもの)、意識が不連続になるのは解離性昏迷、記憶が不連続になるのは解離性健忘などがそれぞれ挙げられます。他にも、離人症や解離性遁走など様々な病態を呈するのがこの疾患の特徴です。×

c 今回は強迫性障害の症例です。治療はパロキセチンセルトラリンエスシタロプラムフルボキサミンなど(全てSSRI)が使用されます。パロキセチンは国試に出てもおかしくないので覚えておいてください。商品名はパキシルです。〇

d 身体化障害、国試では過去に身体表現性障害として出題されていた疾患で、いわゆる転換性障害のことです。精神的なストレスが身体的な症状に「転換」されることで生じるもので、歩けなくなったりすることが多いです。「疾病利得」、すなわち、疾患になることでストレスを回避できるなど、疾患のために本人が無意識に利益を生じている場合があり、そのため本人は症状の大きさに比べ、「満ち足りた無関心」という状態を呈することがあります。×

e 社交不安障害SADは、人前に出るのが怖い、スピーチなどで過剰に緊張し人前で話せない、などの症状を示す、不安障害の一種です。パニック障害の広場恐怖と異なり、人が多くいることそのものではなく、多くの人に注目され恥をかくことを過剰に恐れており、回避性パーソナリティー障害などと関連があることもあります。「みんなが〇〇してくる」といった被害的な訴えは通常なく、過去に恥をかいた経験などから、人前で字を書けない、食事を出来ない、スピーチが出来ない、といった恐怖が強く生じ、日常生活に支障を及ぼします。×

 

回答:c

予想模範解答:c(ほぼ100%)

 

典型的な強迫性障害の症例です。

強迫性障害で他に多いのは、「手を洗わずにはいられない」などの洗浄恐怖があります。コロナ禍で洗浄恐怖に火がついてしまい、本症を発症した患者さんも多いのではないでしょうか。

 

ところで、ベンゾジアゼピン抗不安薬は「抗不安薬」とは言いますが、最近は不安障害圏の疾患に対してもあまり使われなくなっているイメージです。

 

不安障害の鑑別はCBTぐらいの時期からしっかりやらされますが、苦手意識にある方は、こういったマイナー系のビギナー向け国試対策参考書を使用するのがいいと思います。

精神科は範囲が広くないのと正答率が高いのもあり、「まとめてみた 精神科」だけでCBTも国試も十分な気がします。

 

もし、私みたいにもっと詳しい教科書を欲している方がおられましたら、是非こちらをおすすめします。

正直めちゃくちゃ高いのでなかなか買えるものではありませんが、いろんな症例が載っており、誤解を恐れずに言うと、非常に面白い読み物だと思います。

大学の図書館とかに多分あると思うので、ぜひ読んでみてください。めっちゃでかくて分厚いです。

 

あとはこれ。初学者が精神科の全体像を楽しく学びたい場合におすすめ。

この本は面白すぎて1日で読みました。

ICD-10の診断基準がマンガで説明されており、特に発達障害の章は具体的な症状が分かりやすく、実は研修医以上でも全然勉強になるぐらい情報量も多いです。

 

それと最近の新刊。

実はまだ読んでないのですが、面白そうなので今読んでいる本を読み終えたら購入するつもりです。

 

最後に!気分障害に興味がある方におすすめ。

強迫性障害の問題の記事で気分障害の本を紹介するのはおかしいですね…

でもこの本のお陰で私は、上位診断という概念を学びました(確か序盤に書かれていました)。

過剰診断を防ぐためにも、非常に大事な概念だと個人的には思います。